2017年9月取材

ラテン音楽やダンスがお好きで、専門もラテンアメリカの音楽・舞踏という長野太郎教授。アルゼンチン留学を含めると10カ国以上、通算で約4年をラテンアメリカで過ごされたという。そんなラテン通な教授にラテンなお話をお聞きしました。

Interview by Kentaro(サルサホットラインジャパン)

 

南米の地図の前に立つ長野教授

左:長野教授 右:Kentaro

 

 

夢中だったラテン音楽とダンスが僕にいろんな景色を見せてくれた

 

——長野さんは、ラテン地域の音楽・舞踏を研究されていらっしゃって、サルサダンス歴9年とのことですが、どんなきっかけでダンスを始められたのですか?

 

長野氏(以下、長野) 話せば長いですよ(笑)。僕は高校1年のときにブラジル音楽にハマって、今思うとそれが僕の「ラテンのトビラ」を開いていったんだと思いますね。

 

——ブラジル音楽が「トビラ」だったのですね。

 

長野 当時は音源に触れる機会が限られていたので、レンタルレコード屋やFMラジオをチェックしてよく聞いていました。サルサ音楽も日本に入ってきた頃ですね。82年に発売された「オルケスタ・デル・ソル」のライブ版のLP『ハラジュク・ライブ』。僕にとって、このレコードがサルサの出発点です。ストレートにカッコよくて、自分の部屋で何度も聴きながら踊り方も知らないのにノリノリで踊りまくっていましたね。今も僕にとって「デルソル」は特別な存在です。

 

——出発点は「デルソル」なんですね?! 10月29日の JAPAN SALSA CONGRESS のライブにぜひお越しください

 

長野 はい、行きます! 「デルソル」ファンでしたけど、サルサ音楽ファンというわけではなかった。ファニアオールスターズも音だけで映像がないから、当時の僕にはさっぱり理解できなくて(笑)。

で、高校3年の時に、カルロス・サウラ監督の映画『カルメン』を通じて「舞踊家アントニオ・ガデス」に触れました。男が踊るのはなんてカッコいい! と衝撃を受けて。大学生になってから、「アントニオ・ガデス舞踊団」の来日公演も見に行ったのですが、いまだに舞台より映画のほうが強く印象が残っています。

その後、大学2年の頃に、ラテンアメリカを放浪してきた方と知り合う機会があって、アルゼンチンの民俗舞踊「フォルクローレ」のダンスグループに誘われて参加しました。「アルゼンチン・フォルクローレ」にはいろんな種類があってペアダンスもあるのですが、僕は男性だけの踊りで、動きが派手で飛んだり跳ねたりする「マランボ」に魅了されました。ソロやグループでサークル活動的にやり始めて、それから20年以上「フォルクローレ」は続きましたね。

 

——「マランボ」は「どうだ、カッコいいだろう!」的なカウボーイのようなダンスですね。激しいタップダンスのような。

 

長野 はい。それから大学を休学して10カ月間、ラテンアメリカへ旅に出て、アルゼンチンで半年間本格的にダンスを習いました。もう引き返せない道に入った感がありましたね(笑)。

ダンスの技術やテクニックに興味があったからレッスンを受けたのですが、現地で女性と一緒にレッスンしているとだんだんペアダンスへの興味もでてきて(笑)。

日本に戻ってから、今は妻である女性とダンスグループで知り合って、それからですね。意識してペアダンスをするようになったのは。

それにしても、ラテン音楽とラテンダンスへの興味は、僕をいろんなところに連れて行ってくれることになりました。

 

キューバでおばあちゃんと踊る長野教授

キューバで知り合った70歳すぎのおばあちゃんの家でダンス!

 

 

ペアダンスは、どっぷりつかってみてこそ喜びや楽しみが広がる

 

——男女で踊るペアダンスは、サルサはもちろんのこと、日本ではハードルが高いと受け取られている部分があると思います。ラテンアメリアでいろんな国のダンスの経験をお持ちの長野さんは、そのへんはどのように感じていらっしゃいますか?

 

長野 僕も自分がペアダンスをすることになるとは思ってもいませんでした。日本人は手をつなぐことから抵抗感が普通にありますよね。ラテンアメリカに行くようになって、僕が自分で一番変わったな、と思うのは相手との接触。触れ合いです。

例えばアルゼンチンでは、男性同士のあいさつでも頬を合わせたりする。親愛の情を触れることで表現しますね。肩に手を回されたり、頬を寄せられるのは受け入れてもらっているからで、触れることで言葉より自分の気持ちを早く伝えることができる。僕も現地にいると自分から触れ合っています。そんな経験とサルサダンスを好きになったのはリンクしていますね。今は触れ合うことに抵抗感はまったくないです。

 

——日本人は距離をとるのが礼儀で、子供がある年齢になると親も子供に触れなくなりますよね。

 

長野 ラテンアメリカでは、親兄弟、友人ともみんな触れ合いますね。お母さんと息子で踊ったり、おばあちゃんとも踊ったり。日本では親密な関係だけで、ボディタッチの文化は昔からありませんし。

 

——日本の祭りで考えても、整列して踊ったり、輪になって踊ったりで、ペアで向き合って踊るパターンはまずありませんよね。

 

長野 世界的にみると、ペアダンスはヨーロッパ発のダンススタイルですね。アジアやアフリカ、南米の先住民も、かつてはペアでは踊りませんでした。ラテンアメリカにはスペイン人が入ってきたからペアダンスが根付いたようです。

12世紀ぐらいの中世からヨーロッパでペアダンスが出てきて、ブルボン王朝の時代に舞踏会などでどんどん洗練されていきます。キューバのルンバもおそらくヨーロッパ人との接触の中で生まれたんだと思います。ワルツとか「世界はふたりのために」の世界観で、ペアで踊らないとまったく意味がないダンスは、ヨーロッパ以外では発祥していないんです。

 

——日本人にとっては、ペアダンス自体がいろんな文化が混ざり合った異文化というわけですね。それはそれで本来持ち合わせていない概念だからこその面白さがありますよね。知らないともったいない。

 

長野 海外のフェスティバルなどで、その場で出会って言葉が通じない人ともサルサは踊れますよね。あれは本当に楽しいコミュニケーションです。日本でもっとサルサを踊る人が増えればいいですよね。ペアダンスは、しっかりと踏み込んでどっぷりとつかったら、喜びや楽しみが広がることを、もっと伝えていきたいです。

ペルーで「一緒に撮影を!」と頼まれて社員に映る長野教授

日本人が珍しいようで「一緒に写真を!」とよく頼まれます。(ペルーにて)

 

 

人間関係が濃くて、懐かしくてほっとする。それが僕が思うラテンの魅力

 

——長野さんは、何度もラテンアメリカに行かれてみて、ラテンアメリカのどんなところに魅力を感じていらっしゃいますか?

 

長野 ラテンアメリカの魅力。僕は濃い人間関係があることじゃないかと思います。僕自身、遠い親戚がアルゼンチンに住んでいるのですが、日本にいる親戚よりも密な付き合いをしていたりします。旅先で知り合った人を再び訪ねると、家の中に迎え入れてくれて家族が

帰ってきたかのように喜んでくれる。そんな土地はもうなかなかないんじゃないかと思います。そういえばKentaroさんはコロンビアに行かれたのですよね。コロンビアはどうでしたか?

 

——僕は昨年末から年始にかけて、コロンビア第三の都市・カリという街に滞在したのですが、まるで『三丁目の夕日』の世界でした。僕がいたところは、下町風情で、舗装されていない道路に水たまりがあったり、屋台から料理を焼く煙やにおい、サルサやいろんな音楽が流れていて。野良犬が走り回っていたりして。滞在先の家には、近所の親戚や知り合いが入れ代わり立ち代わりやってきて、付き合いが濃いし深いと感じました。

 

長野 街の光景も人間関係も、どこか懐かしい感じがしてほっとします。日本人は現地では珍しいので、日本人見たさもあるのでしょうが、ほんと、いろんな人がやってきますよね(笑)。

ダンスを使ってナンパしようとかっていうのは、むしろラテン的ではないんです。サルサのようなダンスも、そんなつながりを大切にする文化の中から生まれて、広まっていったのでしょうね。

 

■□■

Profile

長野 太郎 ながの たろう

清泉女子大学スペイン語スペイン文学科 長野教授

清泉女子大学スペイン語スペイン文学科教授。ラテンアメリカ地域におけるポピュラーダンスを中心とした音楽・舞踊を研究テーマとしている。趣味はギターなどの楽器演奏、街歩き、ああだこうだと頭が痛くなるまで奥様と言い合うこと。今やってみたいことは民泊の提供だという。

 

取材協力

本場ペルー料理 アルコ イリス  五反田店

白身魚にタコ、イカなどの魚介に野菜を加えレモンで和えた「セビチェ」や、ゆでたじゃがいもにチーズと黄唐辛子、ミルクを混ぜたソースをかけた「ワンカイナ」など、ペルーの美味しい家庭料理を楽しめる。

電話:03-3449-6629

住所:東京都品川区東五反田1-15-5 第5本宮ビル2F

アクセス:五反田駅東口から徒歩3分

営業時間:12:00〜22:00

定休日:無休